「肝臓のがんが動き出したって。」
浮かない顔をして病院から戻った母の第一声。そして
「腫瘍マーカーが上がった。肺にも転移しているみたい。」
言葉が出なかった。
一年間抗がん剤を中止していて、こんなにも悪化していたなんて。
やっぱりどんなことをしてでも抗がん剤を続けていれば良かったんじゃないか!?
とその時は医師を恨んだ。
でも今考えると、あのまま続けても母は副作用に悩まされていただろうし、白血球が低下して他の病気にかかっていたかもしれない。
それに一年間、普通の生活ができたことは奇跡だったと思う。
「また抗がん剤が始まるのか。」
「頑張ろう。」
辛くても治ることを信じ頑張ってきた母を知っているから、そう言うのは辛かった。
今度は治るかもしれないという希望は持てないと、母も分かっていたようだ。
その間私には子供が生まれ、母はばあばになることが出来た。
母は孫の為にも頑張らなきゃと自らを奮い起たせ、抗がん剤治療を始めた。
しかし副作用は以前より強くかなり辛いものだった。
脱毛から始まり、手足のしびれ、口内炎。
そして特に母を悩ましたのが、爪の変形や指の腫れだった。旗から観ても酷いもので、手足の全ての指が紫色に腫れて膿む。
家事が出来ないことに相当ストレスを溜めていたみたいだった。
「もうウンザリ!!もう嫌だ!!」
母の心が折れることが増えた。
父にもかなり当たっていたようだった。
絶対に治らない上に地獄の様なつらいことをしなければいけない
そんな状況で人間まともでいられるだろうか?
母は本当に頑張ったと思う。
そして息子が一歳を迎え、手術から3年がだった頃
ついに医師から耳を塞ぎたくなる様な宣告をされた。
「抗がん剤を使いきりました。あとはご自宅で療養されてはどうですか?」